ピラティスで学ぶ解剖学の基礎|インストラクターが知るべき身体の仕組み― 骨盤と脊柱を中心に ―

座位姿勢と脊柱の写真
体の仕組みが分かると、姿勢も捉えやすくなります

ピラティスを学ぶ上で欠かせないのが「身体の仕組み」を知ること。
骨や関節の位置を正確にイメージできるようになると、
姿勢の特徴や動きのクセが自然と見えてきます。

今回は、ピラティスの軸ともいえる骨盤と脊柱を中心に、
実際のエクササイズの中で骨盤と脊柱の関係を感じていきましょう。

自分の体を「外から見る」のではなく、
「内側から理解する」第一歩として、解剖学の基礎をやさしく整理していきます。

解剖学とは?

解剖学とは、人の身体の構造を理解するための学問です。
骨や筋肉だけでなく、神経や臓器、関節など、身体を形づくるすべての要素を対象とします。

ピラティスにおける姿勢や動きを観察する際に、まずは体の各部位がどんな形状をしてどのような働きをしているのか、理解を深めることは大切です。

骨盤の構造と働きを理解しよう

まずは骨盤について整理していきましょう。

骨盤の図
骨盤は上半身と下半身をつなげる要


骨盤は、仙骨・尾骨・そして左右の寛骨 から構成されています。
寛骨はさらに 腸骨・恥骨・坐骨 の3つの骨の総称です。

  • 寛骨の中央には「寛骨臼」と呼ばれるソケットがあり、大腿骨頭がはまり込むことで股関節を形成します。
  • 左右の恥骨の結合部は「恥骨結合」と呼ばれ、線維軟骨板と靭帯によって補強されています。
    この関節は通常ほとんど動きませんが、出産時にはホルモン(リラキシン)の作用でゆるみ、大きく可動するようになります。
  • 坐骨の下端には「坐骨結節」があり、座ったときに体重を支えるポイントとなります。
  • 仙骨と腸骨の間には「仙腸関節」があり、表面の凸凹した構造によって前後方向(前屈・後屈)のわずかな動きを可能にします。

骨盤は、上半身からの荷重を受けて下肢へ伝える と同時に、
歩行やジャンプなどで下肢から伝わる衝撃を吸収する という、
双方向の力の伝達を行う役割を担っています。

骨盤の動きと腰椎の関係

骨盤は、姿勢を読み解くうえで最も重要な部位のひとつです。

骨盤が前傾すると腰椎の前弯(反り)が強まり、
骨盤が後傾すると前弯が減少します。

骨盤前後傾と腰椎の関係性の図
骨盤前後傾と腰椎の関係
(出典:Neumann DA. 『筋骨格系のキネシオロジー』第3版, 医歯薬出版株式会社, 2014年)


つまり、骨盤の傾きが変わることで、脊柱全体のカーブも変化するのです。

ピラティスの基本姿勢である 「ニュートラルポジション」 を取るとき、
骨盤の位置を正確に理解しているかどうかで、全身のアライメントが大きく変わります。

骨盤がニュートラルに保たれると、脊柱は自然なS字カーブを維持し、身体の中心が安定します。これが、ピラティスにおける動きの質を高めるための土台となります。

脊柱の構造と役割を見てみよう

次に、脊柱について見ていきましょう。

脊柱はまっすぐではなく、自然な S字カーブ を描いています。
このカーブが重力や衝撃を分散し、身体にしなやかさと安定を与えているのです。

この自然なカーブが崩れると、首や腰に負担がかかりやすくなります。
ピラティスで大切にされる 「ニュートラル・スパイン(脊柱の自然なカーブ)」 は、
まさにこのバランスを取り戻すための考え方です。

脊柱の図
脊柱の全体像
(出典:Calais-Germain B.『新・動きの解剖学』科学新聞社出版,2019年)



脊柱は、椎骨(ついこつ) と呼ばれる小さな骨が積み重なってできています。全部で 24個の椎骨 が連なり、その下に 仙骨と尾骨 が続きます。

脊柱は“身体の軸”として頭の下から骨盤までつなぎます。

部位椎骨の数主な役割
頸椎(けいつい)7個頭を支え、動かす
胸椎(きょうつい)12個肋骨と連動し、胸郭を形成する
腰椎(ようつい)5個体重を支え、前後・左右に可動しやすい

各椎骨は、前側のブロック状の「椎体」と、後ろ側のアーチ状の「椎弓」で構成されています。
その間を通るのが 脊髄(せきずい) ― 神経の大切な通り道です。

丸い形状の椎体と突起が特徴的な椎弓

椎骨の後方には突起があり、上下の椎体間で「椎間関節」を形成します。
この関節面が、椎骨の動きを導くガイドのような役割を果たします。
頸椎・胸椎・腰椎それぞれの椎間関節の形状には特徴があり、
この角度の違いによって「どの方向に動きやすいか」が決まります。

椎体の間には 椎間板 という線維軟骨とその中心部には ジェル状の髄核 があり、
クッションのように衝撃を吸収します。
椎間板は、背骨の動きを補助しながら、体重を支える重要な構造です。

TIPS

体を構造的に理解することは、ピラティス指導の“観察力”を育てます。
たとえばクライアントがロールアップで途中で止まってしまう場合、
それは「腹筋が弱い」だけでなく、「特定の椎骨の動きが硬い」ことが原因かもしれません。

ピラティスのエクササイズを見てみよう

実際のエクササイズで、骨盤と脊柱の関係性に目を向けてみましょう。
ここでは、2つのエクササイズをご紹介します。

Leg Circle(レッグサークル)

📺 動画を見る(YouTube公式

仰向けの姿勢で片脚を上げ、股関節を中心に円を描くように動かすエクササイズです。
狙いは股関節の可動性向上ですが、体幹の安定が鍵になります。

骨盤が脚と一緒に動いてしまうと、腰椎で代償してしまい、股関節本来の動きを引き出せません。
ASISや恥骨の位置を感じながら、「骨盤は静かに」「足の付け根の股関節から動かす」ことを意識してみましょう。

💡ポイント
骨盤を固定するのではなく安定させながら、脚をしなやかに動かす感覚を大切に。

Spine Twist(スパインツイスト)

📺 動画を見る(YouTube公式)

長座姿勢で座り、上半身を回旋するエクササイズ。
狙いは胸椎の回旋の促進です。

骨盤が一緒に回ってしまうと、腰椎や股関節の動きになってしまい、胸椎の回旋を十分に引き出せません。
坐骨を均等に床に感じ、骨盤を正面に向けたまま、背骨が上へ伸びながら回る意識を持ちましょう。

💡ポイント
骨盤を“固定”ではなく、“支点”として使うことで、動きがスムーズに。

触れてみよう!ランドマークを感じる練習

背中のランドマークを触る写真
大まかな位置をイメージしながら、ランドマークを触ってみましょう

最後に、ピラティス指導をする上で知っておきたい骨盤と脊柱の「骨の位置=ランドマーク」をご紹介します。

ピラティスの指導者にとって、“見る”と“触れる”はセットで身につけたいスキルです。

ランドマークを知ることで、

  • クライアントの姿勢の特徴や動きのクセを把握できる
  • エクササイズ選択や修正の根拠を明確にできる
  • セッション効果を客観的に評価できる

つまり、骨指標を知ることは「観察力」と「指導力」を高める第一歩なのです。

実際に自分の体に触れながら、ランドマークを確認してみましょう。

骨盤

  • 腸骨稜(ちょうこつりょう)
    両手を腰に当てると、手のひらに触れる骨盤の上端。
    骨盤の傾きや高さの左右差を確認します。
  • ASIS(上前腸骨棘:じょうぜんちょうこつきょく)
    腸骨稜に手を置いたまま、指先を前方へ滑らせると触れる、骨盤の前の出っ張り。
    ニュートラルポジションを確認するときの基準になります。
  • PSIS(上後腸骨棘:じょうごちょうこつきょく)
    腸骨稜に手を置いたまま、手のひらを後方に滑らせると親指で触れることのできる骨盤の後ろの出っ張り。
    立位でASISがPSISの高さより、指2本分下方にあるのが骨盤のニュートラルの目安です。
  • 恥骨(ちこつ)
    両手で三角形を作り、手の土台をASISに置くと、指先辺りが触れる固い骨。
    仰向けでASISと恥骨の高さが水平になるのが骨盤のニュートラルの目安です。
  • 坐骨(ざこつ)
    椅子に座ったとき、お尻の下で当たるゴリッとした骨。
    座位姿勢では、坐骨が床に均等に当たっているかを確認します。

脊柱

  • 棘突起(きょくとっき)
    背骨中央をなぞると触れる突起。
    脊柱のアライメント(配列)やS字カーブの程度を確認します。

TIPS

ランドマークを意識できるようになると、
「姿勢をただ見る」から「構造として理解する」へ視点が変わります。

インストラクターにとってこれは、動きを導く言葉の精度にもつながります。
「ASISと恥骨が水平になるように」「坐骨で床を押してみましょう」と直接的なキューで伝えることで、クライアント自身も姿勢と動きを理解しやすくなります。

動きを解剖学的に観察することで、必要なキューやエクササイズを的確に選ぶことができ、単なる「正しいフォーム指導」を行うのではなく、身体の個性に寄り添うアプローチにつながります。

まとめ

骨や関節の位置を意識しながら動くことで、
ピラティスのエクササイズは“形”から“感覚”のトレーニングへと変わります。

今回取り上げた骨盤と脊柱は、姿勢を支え、動きを導く中心。
それぞれのランドマークを感じ取ることで、
「どこを動かしているのか」「どこが支えているのか」を
自分の体でも、クライアントの体でも理解しやすくなります。

ピラティスは、単にエクササイズを繰り返すものではなく、
身体を観察し、理解し、より良い動きへ導く“学びのプロセス”です。

今日のレッスンやセルフプラクティスの中で、
ぜひ「骨盤」と「背骨」を意識して動いてみてください。
きっと、いつもの動きが少し違って感じられるはずです。

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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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ポールスターピラティスは、世界基準の包括的なピラティス教育を提供する国際的な団体です。単なるエクササイズの"型"を覚えるのではなく、なぜその動きが必要なのか、どのように身体に作用するのかを、解剖学・運動学・生体力学の視点から丁寧に理解していきます。

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  • 身体の仕組みを理論的に学びたい方
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