ピラティスで体幹を鍛える効果的な方法― 科学的根拠に基づく正しいトレーニング ―

chest liftを行っている写真

「体幹を鍛えたいです!」
セッションの中で、クライアントからこんな言葉をかけられることは少なくありません。

そのとき、あなたはどんなエクササイズを思い浮かべるでしょうか。
チェストリフト? ハンドレッド? プランク?

どれも“体幹トレーニング”としてよく知られたエクササイズですが、本当にそれが、その人にとって最適な選択なのでしょうか。

今回の記事は、Pilates Hour #123 – A Deeper Dive Into the Core (Shelly Power × Brent Anderson)で語られた内容をもとに、「体幹を鍛える」とはどういうことなのかを、科学的視点から整理していきます。

「万能なエクササイズ」は存在しない

まず結論からお伝えすると、「これだけやればOK!」という万能なエクササイズは存在しません。
なぜなら、体幹を鍛えるトレーニングといっても、その人の目的によって必要となる要素が変わるからです。

体幹を鍛えて何をしたいのか。
“割れた腹筋”を手に入れたいのか、姿勢を改善したいのか。
日常生活を楽にしたいのか、スポーツやダンスのパフォーマンスを向上させたいのか。

最終的に目指す活動(タスク)が違えば、身体に求められる能力も異なります。
だからこそ体幹トレーニングは、「エクササイズの種目」から考えるものではなく、「目的」から逆算して設計されるべきなのです。

テニスを行う写真
テニスを上手くなるにはどんな要素が必要か

そもそも「体幹」とは何を指すのか

体幹(trunk)とは、解剖学的に頭部・頸部・四肢を除いた、胸郭と骨盤を含む胴体全体を指します。
いわゆる「腹筋」だけを意味する言葉ではありません。

また、コア(core)とはフィットネスやトレーニングにおいて体の中心部を指し、腹腔を形成する胸郭と骨盤、および腹腔壁を構成するインナーユニット(腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群)から構成されます。

腹筋群はもちろん、背骨を支える筋群、肋骨周囲、骨盤底、
そして四肢との連動まで含めて、体幹は機能します。
つまり、どれか一つの筋肉を意識的に鍛えただけでは、コアコントロールという本来の目的は達成できないのです。

「コア=腹筋を固める」という誤解

体幹について語るとき、多くの人が「腹筋を強く締めること」をイメージします。しかし、ポールスターピラティスではこの表現をあまり使いません。それには理由があります。

コアコントロールとは、特定の筋肉を強く緊張させることではなく、
重要なのは、腹腔内圧(Intra-abdominal Pressure)というシステムが、状況に応じて適切に働いているかどうかです。

腹腔内圧は、インナーユニットである腹横筋や多裂筋といった体幹周囲の筋、上方の横隔膜、下方の骨盤底筋群が、円筒とピストンのように協調して働くことで生まれます。
この立体的な構造が、これからかかる負荷に対して身体がどれだけ準備できているかを左右します。

圧が高すぎれば動きは硬くなり、低すぎれば安定性が失われる。
大切なのは、「常に締める」ことではなく、必要なときに、必要なだけ調整できることなのです。

また、多くの筋活動は、私たちが意識する前に、無意識的・反射的に起こっています。研究では、体幹の安定に関わる筋活動は、刺激から約50ミリ秒以内に起こることが示されています。
これは、脳で考えてから指令を出しているのではなく、脊髄レベルの反射による反応です。

多裂筋のように筋紡錘が非常に多い筋は、微細な変化を瞬時に感知し、必要なだけ剛性stiffnessを調整します。

つまり、本来のコアコントロールとは、「意識して作る」ものではなく、身体が自然に反応できる環境を整えることで引き出されるものなのです。

剛性とは何か?

ここで言う 剛性 とは、

  • 体幹の 腹腔内圧
  • 体幹全体の準備状態

を指しています。

コアは「負荷」によって組織化される

ここで重要になるのが「負荷 (load)」という考え方です。

私たちは、特定の筋肉をキューイングすることで腹腔内圧を正確にコントロールできる、とは証明できていません。

一方で、適切な負荷を与えることで、身体全体がシステムとして組織化されることは分かっています。
負荷そのものが神経系への刺激となり、身体は「これから必要な準備」を自動的に行います。

身体には、とてもシンプルで普遍的な原則があります。それは、
負荷が大きくなるほど動きは小さくなり、同時に剛性は高まる
ということです。これはトレーニングのテクニックというより、身体が本来持っている自然な反応です。

重たいものを持ち上げようとしたとき、私たちは意識的に「固めよう」と考える前に、身体全体が自動的に準備を始めます。
つまり、適切な負荷が与えられれば、身体は「どうやって安定すればいいか」を自ら学習していくのです。

だから本来、「お腹を固めなさい」と細かく指示する必要はありません。指導者がすべきことは、適切な負荷を設定すること
それだけで、身体のシステムは必要な安定性を引き出してくれます。

ここで大切なのは、
負荷=重りの重さだけではない
ということです。

負荷には以下すべてが含まれます:

  • 動作スピード(tempo)
  • 可動域(range)
  • 重力方向
  • 外的負荷(ウェイト)
  • 持久性
  • 環境や不安定性

つまり、 「これから何が起きるか」、「身体が何を求められるか」
によって、必要な剛性は変わります。

ボールエクササイズの写真
ボールを使って支持面を不安定にしてみる

支持面を変える、テンポを変える、不安定さを加える。
エクササイズを提供する際に、
そうした工夫によって、体幹は意識せずとも自然に働き始めます。

注意が必要なのは「初心者」の段階

ここで押さえておきたいポイントは、
「負荷に対する予測(anticipation)」と「実際の負荷」が一致しているかどうかという点です。

初心者は、これから加わる負荷を事前に予測する能力がまだ十分に育っていません。そのため、必要な腹腔内圧を適切なタイミングでつくれなかったり、準備と実際の動作のズレが生じたりします
経験が少ないと、「どれくらい準備すればよいのか」という見積もり自体が誤ってしまうのです。

指導の現場では、ただエクササイズを行うのではなく、「この負荷は、その人にとって予測できる範囲か」「準備と実際が噛み合っているか」を見極めながら、段階的に経験を積み重ねていくことが大切です。

一方で、経験を重ねるにつれて、負荷の予測と実際に加わる負荷が徐々に一致していきます。この一致度が高まるほど、動作は効率的になり、重さをより安全に扱い、支えられるようになります

体幹の安定性やコアコントロールは、筋肉を意識的に操作することで生まれるものではありません。適切な負荷と、それを経験する過程の中で、身体が学習していくものです。

エクササイズで、まず「何を得たいのか」を考える

指導場面では、動きの細かさや筋肉の使い方に入る前に、「この動きで何を得たいのか?」という問いを立てることが大切になります。

可動性を高めたいのか、それともあえて動きを抑えたいのか。
あるいは、より高いコントロールを身につけたいのか。
このエクササイズから何を得たいのか、最初に目的を明確にすることが、すべての指導の出発点になります。

目的が明確になると、そのゴールに近づくための「シナリオ」をつくることができます。

指導で重要なのは、特定の筋肉をどう動かすかを指示することではありません。
イメージを使ったキュー(イマジェリー)などを使い、身体の一部だけでなく、全身と意識を含めた“システム全体”に働きかけることです。ときには、骨格のアライメントや、部位と部位の関係性といった骨格へのキューイングが有効な場面もあります。

大切なのは手段に固執することではなく、その人とその目的にとって、今どの情報が最も届きやすいかを見極めることです。

「できている」状態はとてもシンプル

コアが適切に機能しているかどうかは、とてもシンプルに判断できます。

アライメントが大きく崩れていないこと。
課題(タスク)が達成できていること。
そして、痛みが出ていないこと。

この三つが揃っていれば、必要以上にたくさんキューを出したり、それ以上何かを足す必要はありません。
これは「As much as necessary, as little as possible(必要なだけ、最小限に)」という考え方です。

ピラティスが優れているのは、スプリングやマシンを使って負荷を非常に細かく調整し、動きの中でその人にとって適切な負荷を提供できる点にあります。

まとめ ― ポールスターが大切にしている視点

体幹トレーニングとは、腹筋を意識して固めることではありません。
それは、負荷・環境・課題を通して、身体全体のシステムを引き出すプロセスです。

ポールスターピラティスでは、コアを「鍛える部位」ではなく、「機能する状態」として捉えます。
その視点を持つことで、より安全で、より意味のあるピラティス指導が可能になります。

体幹をどう鍛えるかではなく、なぜその動きが必要なのかを考える。
その問いこそが、指導者としての成長につながっていくのです。

体幹を「腹筋」ではなく、負荷・呼吸・神経系・動作経験が統合されたシステムとして捉える視点は、一朝一夕で身につくものではありません。
しかし、この視点を持てるようになると、エクササイズの見え方や、クライアントの動きの捉え方が大きく変わっていきます。

今回の内容をさらに詳しく知りたい!という方は、
ぜひこちらの動画をチェックしてみてください。
Pilates Hour #123 - A Deeper Dive Into the Core with Shelly Power and Brent Anderson

ポールスターピラティスの養成コースでは、エクササイズの形を覚えること以上に、「なぜこの動きが必要なのか」「この人にはどんな負荷が適切なのか」を考え、説明できる指導者を育てることを大切にしています。
解剖学や運動学、神経系の知見を背景に、動きを観察し、課題を設定し、適切に導く力を段階的に学んでいくプロセスは、ピラティス指導に限らず、身体に関わる専門職にとっても大きな財産になるはずです。

Exercise on Reformer, Comprehensive
コンプリヘンシブコース風景

「体幹」や「動き」をもう一段深く理解したいと感じたなら、それは次の学びへのサインかもしれません。
ポールスターピラティスの養成コースは、その探究を支える一つの選択肢として、きっと多くのヒントを与えてくれるでしょう。

養成コースに興味のある方は、
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