ポールスターピラティスジャパン
骨盤底筋を「鍛える」前に知っておきたいこと

「骨盤底筋を鍛えましょう。」
近年、運動指導の現場や一般向けの健康情報でも、よく耳にする言葉です。尿もれや骨盤臓器脱の予防・改善のために、骨盤底筋トレーニングが勧められることも少なくありません。
しかし、骨盤底筋に必要なのは本当に「筋力」だけなのでしょうか?
骨盤底筋は多くの女性にとって身近なテーマであるにもかかわらず、自分自身の身体について学ぶ機会は決して多くありません。尿もれや骨盤臓器脱、産後の変化などについて悩みを抱えていても、「年齢だから仕方がない」「出産したのだから仕方がない」と受け止めてしまったり、誰にも相談できずにいたりすることもあります。
だからこそ、自分の身体について知り、理解し、自ら選択できるようになることが大切です。
今回は骨盤底筋へのアプローチについて、ポールスターピラティスの創設者であるブレント・アンダーソン氏と、骨盤底筋教育のスペシャリストであるクレア・スパロウ氏による対談Pilates Hour #215「Hope for your Pelvic Health」(2025/05/06)から、特に印象的だったいくつかの視点をご紹介します。
クレア・スパロウ氏について

クレア・スパロウ(Claire Sparrow)氏はPolestar Pilates UK Educator、スタジオオーナー、そしてベストセラー書籍『HOPE For Your Pelvic Floor』の著者として知られています。
ダンサー時代の膝のケガをきっかけにピラティスと出会い、その後、自身の腹直筋離開や骨盤臓器脱の経験を通じて骨盤底筋の学びを深めてきました。
現在は女性たちが自身の身体を理解し、長期的な健康を手に入れられるよう教育活動を行っています。
クレア・スパロウ氏について詳しくはこちらから:https://www.youtube.com/@hopeforyourpelvicfloor/featured
骨盤底筋の健康は、すべての人に関係する
今回の対談の中で繰り返し語られていたのは、「骨盤底筋の健康は特別な人だけの問題ではない」ということでした。
尿もれや骨盤臓器脱などの症状がある人だけでなく、年齢を重ねるすべての人にとって骨盤底筋の機能は重要です。また、骨盤底筋は女性だけのテーマでもありません。
呼吸、姿勢、運動、排泄など、私たちの日常生活に深く関わる組織であり、全身の健康の一部として捉える必要があります。
対談の中で印象的だった言葉の一つが、「Movement produces movement(動きは動きを生む)」というフレーズでした。
ブレント氏は、身体の組織は動くことで健やかな状態を保つと説明しています。消化管の動きは運動によって促され、動きが不足すると便秘が起こります。同じことは循環系やリンパ系にも当てはまります。
さらに対談では、「身体のどの組織も、動きが不足すると便秘状態になる」という印象的な表現を用いていました。
骨盤底筋も例外ではありません。私たちはつい筋力や安定性に意識を向けがちですが、組織が本来持つ滑走性や柔軟性、呼吸に伴う自然な動きを失うこともまた問題となり得るのです。
本当に弱いのか、それとも緊張しすぎているのか
骨盤底筋の問題というと、多くの場合「筋力不足」が原因と考えられています。
しかし対談では、その前提そのものに疑問が投げかけられていました。
ブレント氏は250名以上の女性ピラティス指導者を対象に行った超音波検査の結果を紹介しています。その中で見られた結果の多くは、筋力不足ではなく過緊張の状態でした。
私たちは日頃から、
「お腹を引き込む」
「骨盤底筋を引き上げる」
「コアを締める」
といったメッセージにさらされています。
その結果、腹筋群や骨盤底筋を必要以上に使い続け、腹腔内圧が過剰に高まり、かえって尿失禁などの問題を引き起こしている可能性もあるといいます。
クレア氏もまた、骨盤底筋には強さだけでなく弾力性や適応力が必要であることを強調していました。
特に興味深かったのは、骨盤底筋をトランポリンに例えた説明です。
トランポリンは適度に沈み込み、反発することで機能します。骨盤底筋も同様に、収縮するだけでなく、伸張し、負荷に応じて変位し、元に戻る弾力性が必要なのです。
私たちは、強いか、収縮できるかだけでなく、伸びることができるか、弾力性があるか、呼吸に合わせて動けるか、という視点も持つ必要があります。
呼吸と自己理解から始まる骨盤底筋へのアプローチ
クレア氏が繰り返し語っていたのは、
「まず自分自身の骨盤底筋を知ること」でした。
ピラティスを学ぶ多くの人は、自身の身体の変化や改善を経験したことをきっかけにこの分野に興味を持っています。だからこそ骨盤底筋についても、まずは自分自身で学び、感じ、理解することが大切だと言います。
意外なことに、多くの女性は自分の外陰部(vulva)と膣(vagina)の違いを十分に理解していません。また骨盤底筋が複数の層から構成されていることを知らない人も少なくありません。
まずは解剖学を学び、自分の身体を知ること。そして呼吸を観察することが大切です。
またクレア氏は、呼吸こそが骨盤底筋機能の土台であると説明しています。
特に奇異呼吸(paradoxical breathing)が存在する場合、腹腔内圧のコントロールが乱れ、骨盤底筋に不要な負荷がかかる可能性があります。
興味深いことに、随意的な骨盤底筋収縮がうまくできない人でも、多くの人は呼吸時には自然で弾力的な骨盤底筋の動きを示していました。
対談では、約45%の人が骨盤底筋を意図的に収縮させる際には正確な動きを示せなかった一方で、呼吸時には95%、椅子から立ち上がるといった自然な負荷に対しては90%が正常で弾力的な骨盤底筋の反応を示していたことも紹介されました。
この結果は、骨盤底筋を単独で鍛えること以上に、呼吸や日常動作との協調を考える重要性を示しています。
産後女性に対するピラティスの可能性
対談では産後女性へのアプローチについても触れられており、産後4〜6か月以降の女性に対して、適切なピラティスが組織の回復を助ける可能性を述べています。
呼吸による圧力調整や股関節を介した荷重刺激は、骨盤底筋だけでなく膣壁を含む組織の回復にも好ましい影響を与えると考えられています。
特にリフォーマーでのフットワークや90/90のエクササイズは、股関節の適切な運動を促し、過剰な防御反応を軽減しながら、呼吸や組織本来の動きを取り戻す助けになると紹介されていました。
こうした話からも、骨盤底筋を局所的な筋力トレーニングとして捉えるのではなく、呼吸、姿勢、股関節、そして全身の動きとの関係の中で理解することの重要性が伝わってきます。
私たち指導者にできること
骨盤底筋の問題は、決して一部の専門家だけが扱う特別なテーマではありません。
呼吸、姿勢、腹腔内圧、股関節機能、日常動作など、私たちが日々向き合う多くの要素が骨盤底筋の機能と深く関わっています。だからこそ、「弱いから鍛える」という単純な視点ではなく、「どのように機能しているのか」という視点で理解することが求められています。
また、尿もれや骨盤臓器脱、産後の身体の変化などは、多くの女性が経験する可能性があるにもかかわらず、今なお話しづらいテーマでもあります。
クレア氏は、私たちピラティス指導者がこうした話題をオープンに扱い、安心して相談できる環境をつくることの重要性を語っていました。
女性たちが自分の身体を理解し、適切なサポートを選択できるようになること。それは単なる症状改善ではなく、自分自身の健康に主体的に向き合う力にもつながります。
私たち指導者には、エクササイズを教えるだけでなく、そのための学びと対話の場を提供する役割もあるのかもしれません。
クレア・スパロウ氏から直接学べる機会
今回ご紹介した内容は対談のほんの一部に過ぎません。
実際の評価方法や運動指導への応用、産前産後のサポート、呼吸との統合、骨盤底筋機能の捉え方などは、実践の中で学ぶことでさらに理解が深まります。
来月開催されるPolestar Pilates Japan主催のワークショップでは、クレア・スパロウ氏からこれらの内容を直接学ぶことができます。
骨盤底筋をより包括的な視点で理解したい方にとって、大変貴重な機会となるでしょう。
さいごに
骨盤底筋について学ぶことは、単に症状や機能の改善を目指すことではなく、自分自身の身体を理解し、より良い選択ができるようになることにもつながります。
今回の対談からは、骨盤底筋に関する正しい知識を広めることが、多くの女性に希望と安心を届けることにつながるのだと改めて感じました。
今月のワークショップでも、こうした視点をさらに深く学べることを楽しみにしています。
今回の対談を詳しく知りたい方はこちらから:
Pilates Hour #215 Hope for your Pelvic Health
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